図面作成が得意な巡査Aは、交通事故現場の実況見分の補助者として立ち会った警部補Bから、状況の簡単なメモを渡され、自分は立ち会っていない現場見取図を作成するよう命じられた。警部補Bは、巡査Aの作成した現場見取図を実況見分調書に添付した。
実況見分調書の証拠能力を説明し、本件の現場見取図の証拠能力について述べなさい。
捜査機関が、五官(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の器官)の作用によって、犯罪現場その他犯罪に関係のある場所、身体又は物について、その存在及び状態を経験・認識して事実の調べをする行為(広義の検証)のうち、令状に基づかないで任意に行うものを実況見分といい、この実況見分の結果を書面にしたものが実況見分調書である。
実況見分は、刑訴法197条1項に規定する、捜査に「必要な取調」として実施されている。
(1)問題の所在
検証調書の場合であれば、刑訴法321条3項において、その証拠能力が認められるための要件が明記されているが、実況見分調書の場合には、その要件が定められていない。そこで、実況見分調書における証拠能力が認められるための要件が問題となる。
(2)結論
実況見分調書は、検証調書の場合と同じ要件の下で証拠能力が認められる。要するに、実況見分調書の作成者が公判期日において証人として尋問を受け、真正に作成されたものであると供述することで証拠能力が認められる。
(3)理由
検証と実況見分とは、強制によるものか、任意によるものかという処分の方法の点で異なるにすぎず、その本質において同じものといえるからである。
(4)判例
判例は、実況見分調書について、刑訴法321条3項の「検証の結果を記載した書面」に含まれるとしている(最判昭35.9.8)。
現場見取図は、実況見分調書に添付されてその一部をなしているが、その性質上、見取図それ自体が独立して実況見分調書に準じるものというべきである。したがって、刑訴法321条3項に基づき、その作成者が公判期日に証人として尋問を受け、真正に作成されたことを供述したときに限り証拠能力が認められるとされている(大阪高判昭59.7.13)。
(1)結論
本件の現場見取図には、証拠能力は認められない。
(2)理由
実況見分調書は、その性質上、現場に立ち会った者の五官によって認識した内容が記されていなければならない。しかし、本件の現場見取図は、現場に立ち会っていない巡査Aによって作成されたものである。
したがって、仮に、巡査Aが、公判において、自分が真正に作成したものであると供述したとしても、その内容は警部補Bから渡されたメモを基に作成されたものであって、巡査A自身が現場において認識した内容でない以上、証拠能力は認められない。
(3)裁判例
実況見分の補助者が記載したメモに基づき正確に見取図を作成したとしても、当該作成者は実況見分をした者でなく、実況見分の補助者でもないことから、刑訴法321条3項の適用を受けることはなく、当該見取図に証拠能力は認められない(大阪高判昭59.7.13)。