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刑法

建造物侵入罪の成否

[問題]

車上ねらいの対象を物色していた甲男は、A巡査から職務質問を受けそうになったため逃走し、近くの小学校のフェンスを乗り越え、校庭に侵入したが、その場でA巡査に取り押さえられた。小学校は「部外者立入禁止」の看板を掲示している。甲男の刑責について述べなさい。

  1. 結論
  2. 甲男は、建造物侵入罪(刑法130条前段)の刑責を負う。

  3. 建造物侵入罪
  4. (1)意義

    建造物侵入罪は、正当な理由なく、他人が事実上、管理・支配している建造物にその意思に反して立ち入ることによって成立する。保護法益は、管理権者の管理支配権である。

    (2)建造物

    建造物とは、一般に、屋根を有し、障壁又は支柱によって支えられた土地の定着物であって、少なくともその内部に人の出入りし得る構造を有するものをいう(仙台高判昭27.4.26)。建造物には、住居、邸宅以外の建物等が含まれ、例えば、工場、事務所、官公庁の庁舎、学校、倉庫等がこれに当たる。

    (3)囲繞地

    本罪の「建造物」には、建造物に付属する囲繞地も含まれる(最判昭25.9.27)。次の要件を満たすものが、囲繞地とされる(最判昭51.3.4)

    ア 土地が建物に接してその周辺に存在していること。

    イ 管理者が外部との境界に門や塀等の囲障を設置することにより、建物の付属地として、建物利用のために供されるものであることが明示されること。

    (4)正当な理由

    正当な理由の例としては、法令により捜索・検証するために立ち入る場合、正当防衛・緊急避難等の違法性阻却事由が認められる場合等が挙げられる。

    (5)軽犯罪法1条32号違反との関係

    軽犯罪法1条32号は、「入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入った者」を処罰するとしている。この規定は補充規定であり、住居侵入・建造物侵入罪が成立する場合、本違反は成立しない。

  5. 設問に対する検討
  6. 設問の小学校校庭は、建造物である校舎と同一敷地内にあり、フェンスによって外部と仕切られている状況から、建造物侵入罪における囲繞地に当たる。

    また、甲男は、A巡査からの職務質問を免れ、追跡をかわすために小学校校庭に入り込んでいる。同校は「部外者立入禁止」の看板を掲示しており、同校校長の管理下にあるといえることから、甲男の立入り行為は、管理権者である同校校長の意思に反した侵入行為に当たり、正当な理由も認められない。

    以上により、甲男は、建造物侵入罪の刑責を負う。