甲女は、パチンコ店駐車場に車を止め、エンジンを切った上、窓を閉め、ドアロックした車内に生後9か月のAを残し、2時間ほどパチンコをして戻った。すると、Aがぐったりしていたので、甲女はAを病院に搬送したが、熱中症によりAは死亡した。甲女は「2時間では死なないだろうと考えた」と供述している。甲女の刑責について述べなさい。
甲女は、保護責任者遺棄等致死罪の刑責を負う。
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者が、これらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしないことを内容とする罪で、被遺棄者の生命・身体に対する危険が現実に発生したことを要しない。
(1)客体
老年者、幼年者等の扶助を必要とする者である。「扶助を必要とする」とは、自力では日常生活の用を足すことができないことをいう。
(2)主体
老年者、幼年者等を保護する法的義務のある者(保護責任者)に限定される(身分犯)。
(3)行為
遺棄若しくは不保護である。
ア 遺棄(広義の遺棄)
場所的離隔を伴うことにより、危険を創出することをいう。「遺棄」には、① 客体を安全な場所から危険な場所に移すという作為の「移置」(狭義の遺棄)と、② 危険な場所に放置するという不作為の「置き去り」がある。
イ 不保護
場所的離隔を伴わないで、生存に必要な保護をしないことをいう。
(4)故意
行為者と客体との間に親子関係等の保護責任を基礎付ける事実が存在すること、及び遺棄行為又は不保護行為に該当することを認識している必要がある。これには通常、遺棄又は不保護により、客体に抽象的な危険が発生するとの認識が含まれるが、具体的な危険が発生するとの認識は必要ない。具体的な危険の発生を認識している場合、殺人罪の未必の故意の問題となる。
保護責任者遺棄等罪を犯し、よって人を死亡させた場合に成立する結果的加重犯である。基本犯である保護責任者遺棄等罪と死亡との間に因果関係が認められれば、死亡の予見(過失)がなくても、本罪は成立する。
甲女はAの保護責任者であり、Aは生後9か月の幼年者に当たる。また、甲女の行為は置き去りによる遺棄といえ、抽象的な危険が発生し得るとの認識がある。甲女の行為とAの死亡との間には因果関係が認められ、甲女は保護責任者遺棄等致死罪の刑責を負う。