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刑法

恐喝罪

[問題]

甲は、飲食店において、店主Aに対し「お前のところのメシはひどい、店を続けたいなら慰謝料を払え」と語気鋭く申し向け、畏怖させ、現金30万円を後日支払うことを約束させた。しかし、Aが翌日、警察に届け出たため、その目的を遂げなかった。甲の刑責について述べなさい。

  1. 結論
  2. 甲は、1項恐喝罪の未遂罪の刑責を負う。

  3. 論点
  4. 刑法249条の恐喝罪は、構成要件要素として、最終的に財物を交付させる「1項恐喝」及び財産上不法の利益を得る「2項恐喝」に分けられる。

  5. 恐喝罪
  6. (1)意義

    恐喝罪は、人を恐喝して財物を交付させること(刑法249条1項)、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人をしてこれを得させること(同条2項)、によって成立する。

    (2)恐喝行為

    恐喝とは、財物・利益を交付・移転させることを目的として行われる暴行・脅迫をいう。ここにいう「暴行」は、相手方の反抗を抑圧する程度に至らないものをいい、この程度に達したときは、強盗罪を構成する。また、「脅迫」は、脅迫罪における脅迫と異なり、害悪の対象についての限定はないが、相手方を畏怖させるに足りる程度のものである必要がある。なお、「畏怖」は、困惑や不安の程度であっても、被害者の意思決定の自由を制限するに足りるものであればよい。

    (3)因果的連鎖

    恐喝罪は、詐欺罪と同様、① 犯人の恐喝行為、② 被害者の畏怖、③ 被害者の任意の処分行為、④ 財物又は利益の移転、という4つの要素の因果的連鎖が必要となる。途中で因果的連鎖が切れてしまった場合、恐喝は未遂となる。

  7. 財物交付の意思表示と利益恐喝の成否
  8. 脅迫手段を用いて被害者に意思表示をさせた場合、それが犯人の利益にならない場合には、2項恐喝罪は成立しない。したがって、犯人が財物を交付させる目的で被害者を脅迫したものの、被害者の財物交付の意思表示(約束)がなされた段階で発覚したような場合には、その意思表示自体で、独立の財産的価値がある権利を犯人に与えるものである場合を除き、2項恐喝罪ではなく、1項恐喝の未遂罪(刑法250条)を適用することとなる。

  9. 設問に対する検討
  10. 設問における状況から、恐喝されたことによって意思表示をした飲食店店主Aによる現金交付の約束は、財産的価値がある権利を犯人に与えるものとはいえず、犯人の利益になるとは考えられない。

    したがって、甲は、1項恐喝罪の未遂罪の刑責を負うことになる。