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刑法

公用文書毀棄罪

[問題]

交通違反者としてA巡査の取締りを受けた甲は、A巡査が必要事項を記入していた交通切符を奪い取って破り捨てた。甲の刑責について述べなさい(公務執行妨害罪については別論とする)。

  1. 結論
  2. 甲は、公用文書毀棄罪(刑法258条)の刑責を負う。

  3. 公用文書毀棄罪
  4. (1)意義

    公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄する罪をいう。

    (2)客体

    公務所の用に供する文書又は電磁的記録である。

    ア 公務所の用に供する文書

    公務所において現に使用され、又は使用する目的で保管される文書である。

    交通切符は、複数綴りの1枚でも毀棄されれば交通切符としての効用が失われるものであるため、交通切符に違反事項等の記入がなされた場合、全体として公務所の用に供する文書に当たると解されている。

    イ 文書

    (ア)意義

    文字等の記号を用いて意思又は観念が表示された書面等をいう。

    (イ)判例

    判例は、未完成文書であっても、文書としての意味、内容を備えるに至っている以上、将来の使用に備えて公務所が保管すべきものであることから、「公務所の用に供する文書」に当たり、客体となるとしている(最判昭57.6.24)

    (3)行為

    毀棄することである。

    ア 意義

    本来の効用を毀損する一切の行為をいう。

    イ 判例

    判例は、未完成の弁解録取書(公務所の用に供する文書)を被疑者が両手で丸めてしわくちゃにした上、床上に投げ棄てる行為は、いわゆる「毀棄」に当たるとしている(最決昭32.1.29)

  5. 設問に対する検討
  6. 甲がA巡査から奪った交通切符は、公務所で使用する目的で保管される文書であり、A巡査が必要事項を記入していた交通切符は、全体として公務所の用に供する文書に当たる。また、これを破り捨てる行為は毀棄に当たる。

    以上により、甲は、公用文書毀棄罪の刑責を負う。