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刑法

賄賂の罪

[問題]

甲は、A市市長選に立候補する際、旧知の仲である建設会社社長乙に資金援助を依頼した。すると、乙は甲に対し、当選したら公共事業の発注等で便宜を図ってほしい旨の具体的内容を提示した。甲はこれを承諾し、乙は政治献金との名目で300万円を甲に渡し、後日行われた市長選で甲は当選し、市長となった。甲と乙の刑責について述べなさい。

  1. 結論
  2. 乙には、贈賄罪(刑法198条)が成立し、甲には、事前収賄罪(刑法197条2項)が成立する。

  3. 賄賂の罪
  4. (1)意義

    収賄の罪と贈賄の罪を総称する犯罪である。

    (2)保護法益

    公務員の職務の公正及びこれに対する社会一般の信頼を保護するものである(最判平7.2.22)

    (3)政治献金と賄賂

    賄賂とは、公務員の職務に関する不正な報酬としての利益をいう。政治献金との名目であっても、職務行為と対価関係が存在するのであれば、賄賂性が認められる(東京高判昭34.12.26)

    (4)職務の範囲

    具体的に担当している職務でなくても、一般的職務権限に属するものであれば職務といえる(最判昭37.5.29)。さらに、職務行為に密接に関連する行為も職務に含まれる(最判昭60.6.11)

  5. 事前収賄罪
  6. (1)意義

    公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受等する罪をいう。もっとも、現実に公務員になったということが処罰条件とされる。

    (2)「請託を受け」の意義

    一定の職務行為を行うことの依頼を受け、それを承諾することを意味する。その対象となる職務行為の内容は、ある程度具体性を有していることが必要となる(東京高判昭28.7.20)

  7. 贈賄罪
  8. (1)意義

    賄賂の供与、申込み、約束を行う犯罪である。

    (2)行為

    賄賂の供与、申込み、約束のうち、いずれかの行為があれば足りる。

  9. 事例の検討
  10. 乙は、甲に賄賂を供与しており、贈賄罪が成立する。甲については、公共事業の発注等は、市長の一般的職務権限内であることから、職務に関して、請託を受けて、賄賂を収受したといえる。甲は、現実に、当選して市長となっており、事前収賄罪が成立する。その現金は、政治献金との名目であるが、職務と対価関係が認められるので同罪の成立に影響はない。