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刑事訴訟法

緊急逮捕と準現行犯逮捕

[問題]

不審者がいるとの通報を受けた交番勤務員のA巡査が、現場に急行したところ、バイクを手で押して行ったり来たりしている甲を認めた。そこで、停止させて職務質問をしたところ、甲は答えないで逃走を図ろうとした。更に継続して職務質問をしたところ「路上にあったバイクを盗んだ」との供述を得たので、被害現場に行き、被害者から約10分前に盗まれたことが確認できた。この場合、甲を緊急逮捕と準現行犯逮捕のどちらにより逮捕すべきか、述べなさい。

  1. 結論
  2. 逮捕種別としては、緊急逮捕によるべきである。準現行犯逮捕によるべきではない。

  3. 準現行犯人
  4. 盗品を所持しているなど、法文に規定する一定の個別的要件を満たす者が、罪を行い終わって間がないと明らかに認められるときは、現行犯人とみなされ(準現行犯人)、この者を逮捕することを準現行犯逮捕という(刑訴法212条2項、213条)。

  5. 緊急逮捕
  6. (1)意義

    一定の重い罪を犯した充分な嫌疑のある被疑者につき、逮捕状の発付前に身柄を拘束し、その後、直ちに、裁判官から逮捕状の発付を受ける逮捕をいう(刑訴法210条)。

    (2)要件

    ア 犯罪の重大性

    長期3年以上の懲役に当たる罪等、一定の重大な犯罪でなければならない。

    イ 嫌疑の充分性

    通常逮捕の場合よりも、一層嫌疑が濃厚でなければならない。被疑者の自白のみでは足りない。

    ウ 緊急性

    令状を求めるいとまがないほどの、身柄拘束の急速性がなければならない。

  7. たぐり捜査と準現行犯逮捕の可否
  8. 事実関係を掴んでいた上で、確認的な職務質問をした場合であれば、準現行犯逮捕も可能になるといえる。しかし、不審者への職務質問によって嫌疑を深め、更なる追及により罪を犯したことが判明した場合(たぐり捜査)は、逮捕者が当初から犯罪と犯人の明白性を認識していたとはいえない。犯罪確認時点と被疑者の犯行が場所的・時間的に接着していたとしても、被疑者を準現行犯逮捕することは許されない(東京地決昭42.11.9)

  9. 事例の検討
  10. 不審者がいるとの通報により現場に赴き、そこで当該不審者を発見し、職務質問の結果、甲から自供を得て、裏付け捜査により被害者から窃盗の確認がとれたものである。約10分前に路上で窃取したものであるが、その事実関係は、たぐり捜査によって判明したものであり、準現行犯逮捕すべきではない。窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金であり、被害者からも確認がとれており、また、逃走のおそれもあるので、緊急逮捕すべきである。