読み上げる

刑法

事後強盗罪

[問題]

他人の家に入って金品を物色していた甲は、財物を得る前に、家人Aに発見されて、現行犯として逮捕された。Aは、甲を警察官に引き渡すべく連行していたところ、逃走を図った甲に突き飛ばされるなどしたが、格闘の末、交番の警察官に引き渡した。Aには、幸いにも怪我はなかった。甲の刑責について述べなさい(住居侵入罪は別論とする)。

  1. 結論
  2. 甲には、事後強盗罪の未遂が成立する。

  3. 事後強盗罪
  4. (1)意義

    窃盗犯人が逮捕を免れるなどの目的で、窃盗の機会に相手方に暴行・脅迫を加える罪をいう(刑法238条)。

    (2)主体

    窃盗犯人である。窃盗に着手していれば足りる。侵入窃盗の場合、物色すれば着手が認められる。

    (3)目的

    財物を取り返されるのを防ぐ、逮捕を免れる、又は罪跡を隠滅する目的に基づくことが必要となる。「逮捕を免れ」とは、逮捕されないように暴行等を加える場合のみならず、逮捕された状態から脱しようとして暴行等を加える場合も含まれる(最決昭33.10.31)

    (4)暴行・脅迫の程度

    相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものでなければならない。強盗罪と同様に扱われる以上、通常の強盗罪と同程度のものが要求される。その程度かどうかは、社会通念上、客観的な見地から判断される。

    (5)窃盗の機会

    必ずしも窃盗の現場でなければならないとするものではなく、窃盗の現場と継続的な延長と認められるところであれば、窃盗の機会といえる(東京高判昭33.6.21)

    (6)既遂時期

    窃盗犯が、財物を得た上で、窃盗の機会に暴行等を行えば、本罪は既遂となり、財物を得る前であったならば、本罪は未遂にとどまる(最判昭24.7.9)。本罪は強盗罪に準じるものである以上、強盗罪と同様に、財物を取得していなければ未遂になる。

    (7)罪数関係

    事後強盗罪が成立すれば、窃盗罪は本罪に吸収され、別罪を構成しない(大判明43.11.24)

  5. 設問に対する検討
  6. 設問の場合、甲は、財物を得ていないが、物色していた以上窃盗の着手があり、事後強盗罪の主体となる。逃走を図ってAを突き飛ばすなどした行為は、逮捕を免れる目的があったと解され、また、事後強盗罪における暴行の程度として、社会通念上、首肯できると考える。

    当該行為が行われた場所は、窃盗の現場ではないが、窃盗の現場と継続的な延長と認められるところであり、窃盗の機会におけるものといえる。

    甲は、窃盗に関して未遂であるので、事後強盗罪の未遂の刑責を負う。