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憲法

肖像権と犯罪捜査

[問題]

甲警察署管内において、2日間で3件の路上強盗事件が発生した。目撃状況から、いずれも男性2人組の犯行と思われた。甲警察署A刑事課長は、課員に対し現場付近の全てのコンビニエンス・ストアの防犯カメラに撮影された映像内に、被疑者に似た人物がいないか捜査するように命じた。コンビニエンス・ストアの防犯カメラに撮影された人の容貌映像を捜査に活用することの適否について述べなさい。

  1. 結論
  2. 目撃者や被害者の協力を得て、犯人割り出しに使用するものである以上、問題はないと考える。

  3. 肖像権
  4. (1)意義

    承諾なしに、みだりに容貌や姿態を撮影されない自由をいう。

    (2)憲法上の保障

    幸福追求権の一内容として、憲法13条によって保障される(最判昭44.12.24)

    (3)制限

    「公共の福祉」の観点から制約に服する(憲法13条)。

    (4)肖像権と犯罪捜査

    犯罪捜査は、公共の福祉のために警察に与えられた国家作用の1つであって、肖像権は犯罪捜査の観点から制約を受けるといえる。

  5. 許容条件
  6. 防犯カメラによって撮影されたテープを犯罪捜査に利用するに際し、以下の要件を満たせば、録画された被撮影者本人の同意を得ることなく、犯罪捜査に利用できるといえる(東京高判昭63.4.1)

    ア 犯罪が発生する高度の蓋然性が認められるところにおける撮影・録画であること

    イ 証拠保全の必要性・緊急性があること

    ウ 撮影・録画の方法が社会通念上、相当な方法で行われていること

  7. 事例の検討
  8. 防犯カメラが設置されているコンビニエンス・ストアは、犯罪が発生する高度の蓋然性が認められる場所であって、かつ、犯罪が行われた場合における証拠保全の必要性・緊急性が認められる。

    また、そこでの撮影・録画は、犯罪防止を目的に設置された防犯カメラにより社会通念上、相当な方法で行われている。よって、そこで撮影・録画されたビデオテープを被撮影者の承諾なく犯罪捜査に利用することは許されると解される。

    本件は、甲警察署管内で、2日間で3件の路上強盗事件が発生したとするものであるが、男性2人組との目撃情報から、この2人が、2日にわたり付近にいたことになる以上、現場付近のコンビニエンス・ストアに立ち寄っている可能性も否定できない。そこで、犯人の検挙に役立てるため、コンビニエンス・ストアに設置された防犯カメラを利用することは、問題がないと解される。