甲は、スケートボードで路地を走行中、見通しがきかない交差点において歩行者Aと衝突し、Aに全治約1か月の傷害を負わせた。この場合における甲の刑責について述べなさい(道交法は別論とする)。
甲は、重過失致傷罪の刑責を負う。
(1)結果が発生したこと
(2)当該行為と結果との間に因果関係があること
(3)過失があること
ア 過失とは、不注意、すなわち注意義務に違反することをいう。
イ 注意義務違反の内容としては、① 結果予見可能性があることを前提に、結果予見義務に違反すること、② 結果回避可能性があることを前提に、結果回避義務に違反すること、が挙げられる。
(1)意義
業務上必要な注意を怠り、よって人を死亡又は負傷させる罪である。
(2)業務
業務とは、人が社会生活上の地位に基づいて反復・継続して行う行為であって、他人の生命・身体等に危害を加えるおそれのあるものをいう。娯楽のためにする行為も、反復・継続して行う限り、業務性が認められる。ただし、業務といえるためには、人の生命・身体に対して類型的に危険な行為であることが必要とされ、例えば、自転車の走行は含まれないとされている。
(1)意義
重大な過失により、人を死傷させる罪である。
(2)重過失
重大な過失とは、注意義務違反の程度が著しい場合をいう。すなわち、容易に結果を予見できたにもかかわらず予見義務を怠った、あるいは、結果を予見していたとしても、結果回避が容易であるにもかかわらず結果回避義務を怠った場合をいう。
甲によるスケートボードでの走行は、人の生命・身体に対して類型的に危険な行為とまではいえず、業務上過失致傷罪における「業務」には当たらないと解される。しかし、スケートボードは、移動を可能とする遊具であり、使用する際には他人に傷害を負わせる状況を予見し、これを回避する注意義務が求められる。見通しのきかない交差点で歩行者と衝突するということは、これら注意義務に違反したものといえ、しかもその注意義務違反の程度は著しいものといえる。
したがって、甲には重過失が認められ、その重過失によってAに全治約1か月の傷害を負わせていることから、甲は重過失致傷罪の刑責を負う。