次の甲及び乙の行為に関し、監禁罪が成立するかについて述べなさい。
(1)甲は、生後約1年3か月のA女を人質にして病院に立てこもった。
(2)乙は、不同意性交の目的を隠し、偽計を用いてB女を自動車に乗せ犯行場所まで走行したが、B女は乙の真意に気付いていなかった。
甲及び乙は、それぞれ監禁罪の刑責を負う。
(1)意義
不法に人を監禁することを内容とする犯罪である(刑法220条)。
(2)保護法益
人の身体の場所的移動の自由である。
(3)客体
身体の移動の自由を有する自然人である。身体の活動能力を全く有しない嬰児や意識を喪失している泥酔者等は含まれないが、意思能力がなくても自然的・事実的意味で任意に行動できる者は、監禁罪の客体になる。
裁判例は、自力で這ったり、壁を支えに歩き回ったりすることのできる生後約1年7か月の幼児は、監禁罪の客体となり得るとしている(京都地判昭45.10.12)。
(4)行為
監禁することである。監禁とは、一定の区域からの脱出を不可能若しくは著しく困難にすることをいう。監禁する区域は、必ずしも部屋、倉庫のように周囲を囲まれた場所である必要はなく、脱出が全く不可能でなくても、著しく困難なものであれば足りる。
(5)監禁についての被害者の認識の要否
被監禁者が監禁事実を認識していない場合であっても、監禁罪は成立すると解されている。すなわち、監禁罪においては、被監禁者が自由を拘束されていれば足り、自己が監禁されていることについて認識している必要はない。
裁判例は、強姦(現・不同意性交)目的で女子を自動車に乗り込ませ疾走する行為は、被害者が行為者の意図に気付かず降車を要求していなくても、監禁罪に当たるとしている(広島高判昭51.9.21)。
(1)甲の刑責
甲は、A女を人質にして病院に立てこもっているが、A女は、生後約1年3か月であり、自力で這ったり、壁を支えに歩き回ったりすることができるため、監禁罪の客体となる。よって甲は、監禁罪の刑責を負う。
(2)乙の刑責
乙は、不同意性交の目的を隠し、B女を自動車に乗せて走行している。B女に監禁されているとの認識はないが、監禁事実を認識していない場合であっても監禁罪は成立し得ることから、乙は、監禁罪の刑責を負う。