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憲法

営業の自由

[問題]

X県では、風俗営業等に関し、学校の敷地の周囲約200メートルの区域内においては営業してはならないなどの制限を条例によって規定している。このような規制が憲法に違反しないかについて述べなさい。

  1. 職業選択の自由
  2. 職業選択の自由とは、自己の従事する職業を開始、継続、廃止することの自由をいう(憲法22条)。

  3. 営業の自由
  4. (1)意義

    営業の自由とは、営利を目的とする継続的・自主的な活動をいう。

    (2)憲法による保障

    営業の自由は、選択した職業を遂行する自由として、職業選択の自由について規定している憲法22条1項によって保障されている(最判昭47.11.22)

  5. 営業の自由に対する制約
  6. (1)公共の福祉に基づく制約

    営業の自由の保障は絶対無制約ではなく、人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理である公共の福祉に基づく制約を受けることが、憲法22条1項に明文で規定されている。
    また、経済的自由権は、精神的自由権と異なり、その性質上、公権力による規制の要請が強いことから、精神的自由権と比べて裁判所の審査基準は緩やかである。

    (2)目的による2つの規制類型

    ア 消極的・警察的規制

    自由な経済活動からもたらされる国民の生命、健康等に対する弊害を除去することを目的に課せられる規制であり、規制目的を達成するために必要な最小限度のものにとどめなくてはならない。

    イ 積極的・政策的規制

    福祉国家理念に基づいて、経済的・社会的弱者を保護するため積極的な社会経済政策を実施する一環として行う規制であり、立法府が裁量権を逸脱し、当該規制が著しく不合理であることが明白でない限り、当該規制は違憲とならない。

  7. 設問に対する検討
  8. 営業の自由は、風俗営業を営む者にも憲法22条1項によって保障されるが、当該営業の自由も公共の福祉に基づく制約を受ける。本件規制目的は、善良な風俗と清浄な風俗環境を保持することにあり、消極的規制に当たることから、本件規制が、規制目的を達成するために必要な最小限度のものである場合には合憲となる。学校機関から一定の距離内での風俗営業を禁止することは、判断能力の未熟な青少年の健全な育成を図る上で必要かつ重要であり、また、当該規制は200メートル内での営業を認めないとするにすぎないものであって、目的達成のために必要最小限度のものといえる。
    よって、X県の風俗営業距離制限は、営業の自由に対する公共の福祉に基づく制約として憲法22条1項に反しない。