甲は、行使の目的でパソコンを使い本物そっくりの1万円札を作成した。甲は、駅売店店員乙が忙しい状況を見計らい、乙に偽1万円札を渡してたばこを購入し、釣銭を受け取った。甲の刑責について述べなさい。
甲は、通貨偽造罪及び同行使罪の刑責を負い、両罪は牽連犯となる。
(1)意義
行使の目的で、通貨を偽造し、又は変造した場合に成立する犯罪である。保護法益は、通貨の真正に対する公共の信用及び国家の通貨発行権である。
(2)客体
通用する貨幣、紙幣又は銀行券である。通用するとは、我が国で強制通用力を有するという意味である。
(3)行為
行使の目的を持って、偽造又は変造することである。
ア 行使の目的
偽造又は変造した通貨を真正の通貨として流通に置く目的をいう。
イ 偽造
権限のない者が通貨に類似した外観を有する物を作成することをいう。
ウ 変造
権限のない者が真正の通貨に加工して、真正の通貨に類似する外観の物を作成することをいう。
(1)意義
偽造又は変造された通貨を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した場合に成立する。
(2)客体
偽造又は変造された貨幣、紙幣、銀行券である。
(3)行為
ア 行使
偽貨を真正な通貨として流通に置くことをいう。
イ 行使目的による交付
偽貨であることを告げ、又は偽貨であることを知る者に、偽貨の占有を移転することをいう。
ウ 行使目的による輸入
輸入したといえるためには、船の場合は陸揚げ、航空機の場合は着陸が必要である。
(4)罪数
通貨偽造罪及び同行使罪は牽連犯となる。偽貨によって商品を購入した場合は、偽造通貨行使罪のみが成立し、詐欺罪はこれに吸収される。
甲が作成した偽1万円札は、本物そっくりであり、一般人にとって真正の通貨と誤信させる程度のものといえ、甲は通貨偽造罪の刑責を負う。次に、甲のたばこ購入は、偽造した通貨を真正な通貨として流通に置くものであり、偽造通貨行使罪の刑責を負い、両罪は牽連犯となる。