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刑法

偽計業務妨害罪

[問題]

甲は、スーパーA店の接客に対する不満を解消するため、商品である食パンに縫い針をひそかに混入した。これに気付いたA店では、商品の安全確認のため当該売場を約2時間閉鎖した。甲の刑責について述べなさい。

  1. 結論
  2. 甲は、偽計業務妨害罪(刑法233条)の刑責を負う。

  3. 業務妨害罪の意義及び罪質
  4. (1)意義

    虚偽の風説を流布し、偽計を用い、又は威力を用いて人の業務を妨害する罪である。保護法益は、人の社会的活動の自由である。

    (2)罪質

    業務妨害罪は危険犯であり、本罪の成立には妨害の結果を生じさせるおそれのある行為で足り、業務が現実に妨害されたことは要しない(最判昭28.1.30)

  5. 業務妨害罪の構成要件
  6. (1)客体

    人の業務である。業務とは、自然人、法人その他の団体が職業その他社会的地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいう。経済的活動・文化的活動であるとを問わず、また、報酬の有無も関係がない(大判大10.10.24)

    (2)行為

    以下の手段により業務を妨害することである。

    ア 虚偽の風説の流布

    虚偽の風説の流布とは、客観的真実に反するうわさや情報を不特定又は多数の者に知れわたるようにすることをいう。

    イ 偽計

    偽計を用いるとは、人を欺き、又は人の無知、錯誤を利用することをいう。偽計には、社会生活上受容できる限度を越えて不当に相手方を困惑させるような手段を用いる場合も含まれる。威力との区別については、欺く行為を手段とする隠密的な行為を偽計、勢力を中心とする公然の行為を威力として判断していると解される。

    ウ 威力

    威力を用いるとは、人の意思を制圧するに足りる勢力を示すことをいう。

    判例は、執務に使用する机の引き出しに猫の死骸等を入れ、被害者に発見させ、同人を畏怖させるに足りる状態に置いた行為について、被害者の行為を利用してその意思を制圧するような勢力を用いたとして、威力に当たるとしている(最決平4.11.27)

  7. 設問に対する検討
  8. 甲は、スーパーA店の商品に縫い針を差し込む行為を隠密に行ったのであるから、甲の行為は「偽計」を用いたということができる。同種事案につき裁判例も支持するところである(大阪地判昭63.7.21)