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刑事訴訟法

自白の証拠能力

[問題]

強盗事件の被疑者甲は逮捕当初から否認を続けていたが、2年前の窃盗事件に関与している可能性が高いことが判明した。A警部補は本件犯行を否認する甲に「正直に話せば、2年前の事件は目をつぶる」と告げ本件の自白を得た。こうして得た自白の証拠能力について述べなさい。

  1. 結論
  2. 甲の自白は、任意性がなく証拠能力は認められない。

  3. 自白
  4. 自白とは、被告人又は被疑者が、犯罪事実の全部又は主要部分について自己の刑事責任を認める供述をいう。

    被告人又は被疑者が、犯罪事実を具体的に供述せずに、単に自己の不利益な事実を認める供述は、「不利益な事実の承認」と呼ばれ、自白とは区別される。

  5. 自白の証拠能力
  6. 憲法38条2項は、「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」として、任意性のない自白の証拠能力を否定している。刑訴法319条1項は、「その他任意にされたものでない疑いのある自白」についても、証拠とすることができないことを明記している。

  7. 任意性が否定される自白
  8. (1)強制、拷問又は脅迫による自白

    被疑者の身体に暴行を加えたり、家族に不利益を与える旨を告げたりするなどによって得た自白は、証拠能力が否定される。

    (2)不当に長く抑留又は拘禁された後の自白

    別事件の逮捕・勾留期間を利用して取調べを続け、自白を得た場合に問題となることがある。「不当に長く」は、勾留の必要性の有無、年齢、健康状態、拘禁場所・状態等を要素として判断される。

    (3)その他任意にされたものでない疑いのある自白

    ア 偽計による自白(最判昭45.11.25)

    偽計を用いて被疑者が心理的強制を受け、その結果、虚偽の自白が誘導されるおそれのあるときは、任意性に疑いがあり証拠能力を否定すべきである。

    イ 不起訴等の約束による自白(最判昭41.7.1)

    自白をすれば起訴猶予にする旨の検察官の言葉を信じた被疑者がなした自白は、任意性に疑いがあるものとして証拠能力を欠くといえる。

    ウ 手錠を施した状態による自白(最判昭38.9.13)

    取調べが手錠を施されたままで行われたときは、心身に何らかの圧迫を受け、任意の供述は期待できないものと推定でき、反証のない限り、供述の任意性について一応の疑いを差し挟むべきである。

  9. 設問に対する検討
  10. 設問における甲の自白は、自白をすれば2年前の事件を起訴猶予にする旨を信じた甲が、起訴猶予になることを期待してした自白であり、任意性に疑いがある自白に当たる。よって、本件自白は、任意性がなく証拠能力は認められない。